2012年8月20日月曜日

陽子




 クランクインからあっという間に時間が流れ、気付けば約半分は撮影済みである。
消し香盤が日々赤く染まっていくのが、なによりもロマンチックだと感じるこの頃。
だんだんと各部署の活躍も目立ってきて、それと同時に疲労も目立ってきている。やつれていくみんなの姿を見ているのは心苦しいが、私も例外ではない。体調管理を怠らず、夏の撮影を乗り切らねば。
さて、今日は陽子役である小林あずささんのクランクインだった。
作品のなかで、陽子のポジションは難しい。脚本ではなんとなく冷たい叔母さんに見えるけど、実は美樹の一番の理解者である。
陽子も、自身が高校生のときに突然姉の京子が目の前からいなくなってしまう、という美樹と似た経験をしている。
美樹の喪失感が理解できるからこそ、陽子は美樹を突き放す。しかも陽子は、京子の死亡によって二度めの喪失感を味わっている。
生き別れのような姉に再びいなくなられても、リアルに考えれば多分、うまく悲しめない気がする。
しかも陽子はすでにいい大人であり、親であり、美樹に対して保護者のような、共感者のような、他人のような、ぐちゃぐちゃした感情がある。
複雑な陽子の心模様をごく短い時間で表現するのは、とても難しいなぁと思った。
何度か小林さんとお話しをしているうちに、小林さんのなかで陽子のキャラクターをのみ込んでいただけて、私の思い描いていた陽子の表情をしてもらうことができた。
でもそれが、作品の全体のなかでどう活きるのか、もっともっと短時間でこだわった演出ができたのではないか…考えだしたらきりがないし、毎日どこを撮ってもそんなことばかり考えている。
とにかく、今日の撮影は順調に終わった。
だけどまだまだ考えなければならないことや反省点はたくさんある。手紙のナレーションの構成、フィルムの残量の問題、クライマックスの撮り方とロケーション、エキストラの確保、現場の回し方の改善…。
頭のなかがグルグルまわって、美樹を見つめているうちに一日が終わってしまう。
一つずつ確実に片付けながら、作業を進めていこう。
現場の美樹はもうそろそろアイデンティティを探し出そうとしてる。
明日も撮影がんばろう。
なんか散漫な日誌になってしまったけど。
 
蚊に刺されがえげつない。
 
 
監督・内田

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